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2016 04,25 06:23 |
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■認知症・高次脳文献レビュー
2016年4月4週・最終号 目次 01. 認知症・・・・・・【d028】 02. 失語症・・・・・・【a044】 03. 前頭葉機能ほか・・【f015】 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 認知症 ◆ Dementia 【d028】非流暢性失語症との比較における進行性意味性失語症の行動評価 ☆ 「Behavioral Evolution of Progressive Semantic Aphasia in Comparison with Nonfluent Aphasia」 Gómez-Tortosa E, Rigual R, Prieto-Jurczynska C. ほか Departments of Neurology and Epidemiology and Biostatistics, Fundación Jiménez Díaz, Spain Dement Geriatr Cogn Disord Vol. 41 No.1-2, 2016, p1-8 進行性意味性失語41名と非流暢性失語39名について、発症から1〜3年と5〜13年の行動面の症状を比較した研究。結果、進行性意味性失語の方が頻繁に錯乱がみられ抗精神薬の必要性が高く、妄想/幻覚と関連していたとのこと。一方非流暢性失語ではうつ症状が多く、抗うつ薬を要したそうです。グループごとに異なる治療とケアサポートが必要だろうと著者らは結んでいます。 これら認知症に伴って生じる精神行動症状は、適切な薬剤投与やケアによってある程度コントロールが可能です。 非流暢性失語では寡黙になり意思を表示しにくくなるので、ストレスが溜まりうつになりやすいかもしれません。 これらの症状が二次的なものなのかどうかはぜひ知りたいところです。 ◆02. 失語症 ◆ Aphasia 【a044】急性期病院における言語聴覚士はの失語症マネージメントの理解 ☆☆ 「“Communication is taking a back seat”: speech pathologists’ perceptions of aphasia management in acute hospital settings」 Abby Fosterac, Robyn O’Halloranbc, Miranda Rosebc & Linda Worrallac* School of Health and Rehabilitation Sciences, The University of Queensland, Brisbane, Australia Aphasiology Vol 30, Issue 5, 2016, p585-608 脳血管障害急性期担当の14名の言語聴覚士に半構造化インタビューを実施、彼らの経験や思考、マネージメントが失語症治療にどのような影響を与えるか調査した研究。 結果、(1) 急性期言語聴覚士の役割の理解が急性期失語症マネージメントに関連、 (2) プログラムの優先順位の検討がプロ意識に関連、 (3) 失語症に嚥下障害が合併した場合の嚥下障害治療の優先度を理解、(4) 言語聴覚士による失語症とそのマネージメントにおける強い信念、 (5) 急性期失語症マネージメントのファシリテーターを理解、との知見が得られたとのこと。 複雑で多様な要素が言語聴覚士の失語症マネージメントに影響しており、エビデンスに基づいた治療を可能にしていると考えられたとのことです。 珍しい言語聴覚士をテーマにした研究。言語聴覚士の能力や資質には人により随分と差があるのが事実です。 言語聴覚士の職能団体では資質向上を図るために講習会を実施したり、専門認定制度などを設けたりしていますが、どれほどの実効性があるかは不明です。 この論文のような研究はひとつの参考になるでしょう。形だけの講習ではなく、実際にマネージメントができるようになるシステムの構築が望まれます。 ◆04. 前頭葉機能ほか ◆ Frontal function & others 【f015】失行的手指模倣障害における意味の効果 ☆☆☆ 「Effect of meaning on apraxic finger imitation deficits」 Achilles G.R, FinkM.H, FischerA. ほか Cognitive Neuroscience, Institute of Neuroscience and Medicine, Research Centre, Germany. Neuropsychologia February Vol.82, 2016, p74-83 失行的な手指模倣障害における意味の影響を検討するために、まず健常者45名が10種の無意味手指ジェスチャーを有意味か無意味か判定。 結果、10種のうち3つを健常者の98%が有意味と判定。その上で左脳損傷255名、左脳損傷113名、失語症者208名にジェスチャー模倣課題を実施。 結果、全例で有意味な手指ジェスチャーの方が良好であり 、特に失語の重症度と関連があった、とのこと。 動作模倣の検出には無意味ジェスチャーが検出力が高いのではないかと著者らは結んでいます。 失行のテストに手指ジェスチャーは非常によく使われますが、そこに意味があると難易度が下がってしまうという研究。 有意味では意味を手掛かりにできるので当然と思われます。 問題は、無意味と思われているジェスチャーでも人によっては意味を見いだしてできてしまうことがある、ということです。 そしてジェスチャーは文化圏によって種類も意味も異なることを我々は忘れてはなりません。ジェスチャーとは意外に奥深い存在なのです。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── さて一年間に渡りお届けして参りましたこのメルマガですが、本号をもちまして終刊とさせていただきます。 もともと20年以上前から個人的に文献を読んではデータベースソフトに要約を入力をしていたものを、メルマガにしてみてはと思い立って始めてみたものです。 おかげさまをもちまして終刊前のこの数号でも新規購読登録をしていただける方が何人もいらっしゃって、ここで終わりにさせていただくのは心苦しいのですが、 個人的な事情などで多忙となり、継続が難しくなってしまいましたので、丸一年というタイミングもあり、終刊とさせていただきました。 サイトの方は残しておきますが、今後こちらをどうするかは全く未定です。 もし新たにメルマガを始めるなど、皆様のお目にとまる時がありましたら、その折にはよろしくお願い申し上げます。 ◎認知症・高次脳文献レビュー 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2016年4月4週・最終号(通巻23号) ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ PR |
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2016 04,24 06:15 |
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■認知症・高次脳文献レビュー
2016年4月2週号 目次 01. 失語症・・・・・・【a041】【a042】【a043】 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 失語症 ◆ Aphasia 【a041】Eメールによるソーシャルネットワーク:失語症者のEメール使用パターンの研究 ☆☆ 「Social networking through email: studying email usage patterns of persons with aphasia 」 Abdullah Al Mahmud & Jean-Bernard Martens Center for Design Innovation (CDI), School of Design, Swinburne University of Technology, Melbourne, Australia ほか Aphasiology Vol 30, Issue 2-3, 2016, p186-210「Digital Technology and Aphasia」 高齢失語症者とセラピストのコミュニケーションを促進するためにオランダ失語症連合が開発したソーシャルネットワーキングプログラムの使用パターンをログとアンケートにより調査した研究。 結果、登録のみのユーザー、すぐにやめてしまったユーザーもありましたが、9996件のメールのうち80.1%は失語症者からの送信であり、失語症者の大部分が送信と受信の両方をしていたとのこと。 現在の状況は第一歩としてなかなか良い、と著者らは結んでいます。 言語機能の改善に双方向のコミュニケーションは欠かせませんが、そのための電子メールの活用は身近で手軽であり、自己修正も可能、しかも楽しく、24時間可能。 ということで非常に有望な手段です。 オランダでも積極的に利用されているようですね。なんとか日本でも広めたいところですが、日本では保険診療の枠組みの中で行うことになるので、なかなか難しいと思われます。 一部のデイサービスなどでは行われていますが、オランダのようにNPOが主体となって推進するなど、なんらかのシステム構築が必要でしょう。 【a042】コンピュータによる失語症リハビリの効果:文献的検討 ☆☆ 「Effect of computer therapy in aphasia: a systematic review」 Carmen Zheng, Lauren Lynch & Nicholas Taylor Speech Pathology Department, Eastern Health, Peter James Centre, Burwood East, Victoria, Australia ほか Aphasiology Vol 30, Issue 2-3, 2016, p211-244 失語症に対するコンピュータによるリハビリと臨床家によるリハビリの有効性を比較するために文献的検討を行った研究。 結果、コンピュータによるリハビリの効果は6つの研究で報告されており、臨床家によるリハビリと比較した3つの研究では双方で改善がみられ、有意な差はなかったとのこと。 コンピュータによるリハビリは有効であり、さらなる研究が必要だろうと著者らは述べています。 コンピュータ的なものを使ったリハビリは以前から少しずつなされていましたが、あくまで教材の一部という位置づけでしかありませんでした。 しかしテクノロジーの進化によりコンピュータで双方向的なやりとりが可能になってきた現在では、臨床家によるリハビリとの完全互換もありうるところまで来ています。 近い将来、失語症リハビリにおける言語聴覚士の役割はプログラムの選択とチェックのみになり、実際のリハビリはコンピュータで自動化されるでしょう。 【a043】動詞健忘性失語症へのスマートタブレットを使った自主トレーニング:2例のケーススタディ ☆☆☆ 「Smart tablet for smart self-administered treatment of verb anomia: two single-case studies in aphasia」 Sonia Routhier, Nathalie Bier & Joël Macoir a Département de réadaptation, Université Laval, Québec, Québec, Canada Aphasiology Vol 30, Issue 2-3, 2016, p269-289 脳卒中後の慢性期動詞健忘性失語症2名にスマートタブレットを使った自宅での自主トレーニングを試みた研究。方法は以下の4過程。 1) ベースライン評価、2)タブレット使用訓練、3)タブレットでの自主トレーニング、4)20回の自主トレーニング後評価。 結果、2名とも動詞の呼称で大幅な改善がみられたが、未訓練語への般化はみられなかった、とのこと。また、両者ともタブレットでの自主トレーニングには非常に満足していたとのことでした。タブレットの使用は、リハビリを強化するために興味深い方法である、と著者らは結んでいます。 未訓練語への般化困難はこのような症例に通常見られる現象です。 そこからするとタブレットと通常訓練には特に差はなく、タブレットでまるまる代行が可能ということになります。 しかも満足度が高かったとのことで、いつでもどこでも利用できるタブレットの利便性がその背景にあるのでしょう。 これまでコンピュータといえばマウスとキーボードのついたパソコンでしたが、今後はタブレットやスマホが中心となり、より簡単な操作でいつでも使えるようになるでしょう。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号はAphasiologyで特集「Digital Technology and Aphasia」が組まれていましたので、そこから文献を選択しました。 今後高齢化社会になるにつれ、リハビリのニーズは爆発的に増加しますが、マンパワーとコストの問題でセラピストがそれを支えるのは不可能と思われます。 そこでデジタルテクノロジーが代わってそれを支えることになるでしょう。 運動障害系はアシストロボット、高次脳障害系はコミュニケーションロボットが活用されることになるでしょう。 バーチャルリアリティや拡張現実も積極的に使われると思われます。セラピストはその中で管理と運用というエンジニアのような役割を果たすことになるでしょう。 IT技術の進化により今後リハビリも大きくその姿を変えて行くと思われます。 次号が最終号となります。よろしくお願い申し上げます。 ◎認知症・高次脳文献レビュー 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2016年4月2週号(通巻22号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ |
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2016 04,24 06:03 |
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■認知症・高次脳文献レビュー
2016年3月4週号 目次 01. 認知症・・・・・・【d026】【d027】 02. 失語症・・・・・・【a040】 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 認知症 ◆ Dementia 【d026】前頭側頭型認知症表現型の生存率 ☆ 「Survival in Frontotemporal Dementia Phenotypes: A Meta-Analysis」 Kansal K, Mareddy M, Sloane K.L. ほか Division of Geriatric Psychiatry and Neuropsychiatry, Johns Hopkins University School of Medicine, USA ほか Dementia and Geriatric cognitive disorder Vol.41, 2016, p109-122 PubMedを用い、27の研究の2462人分のデータから前頭側頭型認知症における 進行性非流暢性失語・意味性認知症・筋萎縮性側索硬化症・進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症の各タイプの生存率を調査したもの。 結果、筋萎縮性側索硬化症が2.5年で最短であった以外、他のタイプの生存率に差は見られず、年齢や性別も影響していなかったとのこと。 今後さらに潜在的な原因の探求が必要だろうと著者らは述べています。 前頭側頭型認知症と進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症は臨床的には無関係のようですが、病理的にはどちらも神経軸索内にタウ蛋白が蓄積しやすいという似た性質を持っています。 そこでこれらの生存率を比較したもの。筋萎縮性側索硬化症はいずれ呼吸筋の運動障害を起こすので生存率最短になるのでしょう。 他のものは症状の進行というよりは合併症の存在が死因となるため差が出にくいものと思われます。 【d027】アルツハイマー病、軽度認知障害と健常高齢者における記憶の自己参照効果:アイデンティティの影響」☆ 「Self-reference effect on memory in healthy aging, mild cognitive impairment and Alzheimer's disease: Influence of identity valence」 Mona Leblond, Mickaël Laisney,Virginie Lamidey ほか Laboratoire de Neuropsychologie et Imagerie de la Mémoire Humaine, Unité de Recherche Université de Caen Normandie, France. Cortex Vol.74, January, 2016, p177-190 20名の健常者と40名の高齢者(軽度認知障害20名、軽度アルツハイマー病20名)に記憶課題とアイデンティティに関するアンケートを実施、その関連を調査した研究。 結果、健常者ではアイデンティティを記憶に充分利用していたが、軽度認知障害ではポジティブな事項にのみアイデンティティを用いていたとのこと(軽度アルツハイマーのデータは分析不適格)。 これらは自尊心と自己関連記憶が保持されているためではないか、と著者らは推察しています。 アイデンティティの形成には記憶が密接に関連するためこれまで多くの研究がなされています。 ここから逆にアイデンティティの補助で記憶想起のきっかけが得られるのではと発想した研究です。 結局アルツハイマー群はデータが不充分で結論は出なかったようですが、可能性のひとつとして今後が注目されます。 ◆02. 失語症 ◆ Aphasia 【a040】後天性失読症に対するテキスト音読訓練での視線行動 ☆☆☆ 「Behavioural and eye-movement outcomes in response to text-based reading treatment for acquired alexia」 Esther S K & Shannon F L Department of Communication Sciences and Disorders, University of Alberta, Edmonton, Canada ほか Neuropsychological Rehabilitation Vol 26, Issue 1, 2016, p60-86 後天性失読症のケースにMultiple Oral Rereadingと Oral Reading for Language in Aphasia を12週間実施、 治療の前後と5ヶ月後にアイトラッキングと一緒に単一ワードやテキスト読み上げの行動評価を行った研究。 結果、治療後と5ヶ月後には視線位置が開始前より単語の中心方向にずれており、文字-意味読書方略の使用を促進が示唆された、とのこと。 著者らは視線に注目することの有用性が実証された、としています。 アイトラッキングは視線の動きを捉える装置です。これを用いて失読症の回復過程を分析した大変興味深い研究です。 回復とともに視線位置が単語の中心になったということは、それまで一文字ずつみて視覚分析していたものが単語全体をみてパターン認識できるようになったということでしょう。 回復過程を示す非常に面白い結果です。もっと多数例でデータをとれば失読の障害過程による新たなタイプ分類ができる可能性もあります。今後が非常に期待されます。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号ではアイトラッキングを用いて後天性失読症の視線行動変化を調べた研究が注目されました。 逐次読みからパターン認識への移行は処理の効率化であり、速読などもこれに当たります。 今回の研究では多様な音読課題を行っていますが、パターン認識を誘導するような課題を設定できれば効率もより高まるでしょう。 さて昨年5月より発行を続けて参りましたこのメールマガジンですが、編集長の本業多忙につき、4月25日発行の第23号を持ちまして終刊とさせていただきたいと存じます。 その旨、皆様方にはご承知おきくださいますようお願い申し上げます。なお4月11日発行の第22号は予定通りです。終刊までよろしくお願い申し上げます。 ◎認知症・高次脳文献レビュー 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2016年3月4週号(通巻21号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ |
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2016 04,24 05:53 |
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■認知症・高次脳文献レビュー
2016年3月2週号 目次 01. 認知症・・・・・・【d025】 02. 失語症・・・・・・【a038】【a039】 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 認知症 ◆ Dementia 【d025】進行性の意味性呼称障害の訓練語彙をどう統制すればいいのか ☆ 「How to constrain and maintain a lexicon for the treatment of progressive semantic naming deficits: Principles of item selection for formal semantic therapy」 Jamie Reillya, Eleanor M. Saffran Center for Cognitive Neuroscience, and Department of Communication Sciences and Disorders, Temple University, Philadelphia, USA Neuropsychological Rehabilitation Vol 26, Issue 1, 2016 p126-156 著者によると「アルツハイマー病と原発性進行性失語症における意味記憶の訓練として、誤りなし学習条件での呼称課題がよく用いられる。 しかし具体的な材料や方法は定まっていない。そこで意味記憶を5年間維持することを目標に100の単語からなる基本マイクロ語彙セットを提唱した」とのこと。 著者らはさらに語彙の使用頻度と概念構造を生かした繰り返しトレーニング法も提案しています。 米国では失語症治療に当たって、目的別に段階的教材が非常に豊富に市販で用意されています。いかにも失語症治療の歴史が長く合理的な米国らしいといえます。 同様に意味記憶の訓練教材も整備したいというのは当然の流れです。目標が機能の5年間維持というのも少し長いですが比較的妥当なところです。 効果の実証はこれからでしょう。 ◆02. 失語症 ◆ Aphasia 【a038】読みの改善:後天性失読症のためのマルチ要素訓練:ケーススタディ ☆ 「Reading recovery: a case study using a multicomponent treatment for acquired alexia」 Jessica Browna, Karen Huxa, Stephanie Fairbanksa Department of Special Education and Communication Disorders, University of Nebraska-Lincoln, USA Aphasiology Vol 30, Issue 1, 2016 p23-44 左半球脳血管障害により失読症を呈し発症後5ヶ月の86歳女性に、一回1時間、計40回5ヶ月間の治療セッションを実施、 (a)子音・母音・子音(CVC)の言葉の復号化、(b)文字認知、呼称、および関連音素の書記素-音素変換、(c)斉唱・復唱、 (d)アナグラムの解読・模写・想起、(e)機能性教材の読み、を実施したもの。 結果、文字認知、書記素-音素変換、および単一単語の復号化のスキルを向上させるのに有効であったとのこと。 症例は全般に改善し独力で読み書きが可能となったが、時に絵の手がかりが必要であったとのことです。 読みに関するかなり多様な課題を行っています。入力・出力・難易度・特殊規則などほぼ全ての面にアプローチすることにより全般的な改善を図ろうとするものと思われます。 対極には、文字認知・書記素-音素変換・特殊読みなどの情報処理過程のどこに問題があるか分析してピンポイントにアプローチするやり方があります。 どちらが効果的でしょうか。現時点ではなんとも言えません。比較検討が望まれます。 【a039】意味性失語における可逆文の理解 ☆ 「Comprehension of reversible constructions in semantic aphasia」 Olga Dragoy, Mira Bergelson, Ekaterina Iskra ほか National Research University Higher School of Economics, Neurolinguistics Laboratory, Moscow, Russian Federation Aphasiology Vol 30, Issue 1, 2016, p1-22 ロシア語話者の意味失語6名、運動失語12名、感覚失語12名、非脳損傷者12名に文章と画像のマッチング課題を実施、前置詞や可逆文の理解状況について比較したという研究。 結果、意味失語群では可逆文の理解は良好だが非可逆文の理解で困難を示す傾向がみられたとのこと。 意味失語では語順で理解がなされており、ステレオタイプな感覚-運動方略によって障害を補っていると考えられた、と著者らは述べています。 意味失語とは語義失語とも呼ばれ、ある物品の意味理解や呼称ができなくなる障害です。 健忘失語のようですが、意味が失われたように言語理解も呼称もできなくなるのが特徴。意味記憶障害に分類されないのは物品の使用などができるからです。 この研究はあまり言及されない意味失語の文法能力について調べたものですが、理論的に考えてあまり腑に落ちない結果です。 症例数も少ないですし、もう少し慎重に検討したいところです。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号では特に注目の研究はありませんでしたが、三つ目の意味性失語関連のものは少し珍しく懐かしい印象でした。 意味性失語は1960年代頃に今のロシアの高名な神経心理学者ルリヤが提唱した失語症のタイプです。 70〜80年代には日本でもよくその名称を聞きましたが、90年代から情報処理的な分析法が広まるにつれ、徐々に聞かなくなっていきました。 この論文はロシアの研究者によるものであり、なるほど、と妙に納得しました。 ◎認知症・高次脳文献レビュー 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2016年03月2週号(通巻20号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ |
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2016 02,08 05:49 |
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■認知症・高次脳文献レビュー Lite版 2016年2月2週号
目次 01. 認知症・・・・・・【d023】 02. 失語症・・・・・・【a037】 03. 頭部外傷・・・・・【ht007】 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 認知症 ◆ Dementia 【d024】日常生活活動における手続き記憶利用:意味性認知症におけるスマートフォン使用 ☆☆☆ 「Relying on procedural memory to enhance independence in daily living activities: Smartphone use in a case of semantic dementia」 N. Bier, S. Brambati, J. Macoirde, G. ほか School of Rehabilitation, Université de Montréal, Canada ほか Neuropsychological Rehabilitation Vol 25, Issue 6, 2015, p913-935 ◆02. 失語症 ◆ Aphasia 【a037】言語聴覚学科学生の失語症グループ療法体験 ☆ 「Student speech pathologists’ experiences of an aphasia therapy group」 Laura Cubirka, Scott Barnes & Alison Ferguson School of Humanities and Social Science, University of Newcastle, Newcastle, Australia ほか Aphasiology Vol 29, Issue 12, 2015 p1497-1515 ◆03. 頭部外傷 ◆ Head trauma 【ht007】重度頭部外傷者の脳損傷の特異的パターンと選択的認知機能障害の関連 ☆ 「Selective Cognitive Dysfunction Is Related to a Specific Pattern of Cerebral Damage in Persons With Severe Traumatic Brain Injury」 Di Paola Margherita, Phillips Owen, Costa Alberto ほか Journals of head trauma rehabilitation Vol 30 Issue 6, 2015, p402-410 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号では何と言っても意味性認知症にスマートフォン使用を試みた研究が注目されました。 多くの場合、重度の記憶障害があっても手続き記憶は保持されますので、手続き記憶を利用して日常生活活動を改善させようとする試みは既にありました。 しかしこれをさらに進めて意味記憶障害にも適応しようとするアイデアは非常に斬新なものです。まして新規学習の余地があるとはなかなか発想できないところでしょう。 人と物との認知的インターフェイス、つまり道具の無意識的使いやすさを高めていくとこのような可能性が高まるということを教えてくれる素晴らしい研究でした。 ◎認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2016年2月2週号(通巻19号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク |
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2015 12,28 09:08 |
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■認知症・高次脳文献レビュー Lite版
2015年12月4週号 目次 01. 注意・記憶系・・・レビュー1件 02. 認知症・・・・・・レビュー1件 03. 失語症・・・・・・レビュー1件 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 注意・記憶系◆ Attention & Memory 【am011】認知機能低下を示さないパーキンソン病患者の健忘様の再認/再生記憶障害の研究 ☆ 「 Evidence of an amnesia-like cued-recall memory impairment in nondementing idiopathic Parkinson's disease」 Nicola M J, EdelstynChristopher M, JohnThomas A ほか Cortex Vol.71, 2015, p85-101 30名のパーキンソン病患者と22名の健常者に対し、誘導あり条件と誘導なし条件で再認/再生課題を実施、相関を調べた研究。 結果、再認/再生課題と抑うつ度、およびパーキンソン病患者の遂行機能と誘導なしの記憶再認課題にのみ相関がみられたとのこと。 これらからパーキンソン病患者の再認/再生課題の低下はおそらく不顕性うつ症状によるものであると考えられ、再認/再生課題における遂行機能障害の関与の可能性から、前頭前野の寄与がありうる、と著者らは結んでいます。 ちょっと分かりにくいのですが、記憶の再認/再生課題は方略を使うと有利であり、方略を使うためには遂行機能が必要という考え方に基づいている実験です。 パーキンソン病患者でうつ症状があると、遂行機能が低下し再認/再生課題が低くなる、という論理展開になっています。 あまりそのような印象はないのですが、認知低下がないのに健忘様の症状をみせるパーキンソン病患者がいる、とのことです。 ただパーキンソン病ではいずれ全般的に認知機能が低下してくるため、認知低下を示していなくとも注意を始めとする細かな認知機能のチェックは欠かせないでしょう。 ◆02. 認知症 ◆ Dementia 【d020】logopenic型原発性進行性失語症と軽度アルツハイマー病患者における音韻性短期記憶 ☆ 「 Phonological short-term memory in logopenic variant primary progressive aphasia and mild Alzheimer's disease」 Aaron M. MeyerSarah F. SniderRachael E. ほか Cortex Vol.71, 2015, p183–189 音韻ループ障害の有無を明らかにするために、logopenic型原発性進行性失語症(lvPPA)者と軽度アルツハイマー病患者および健常者について、音韻性短期記憶課題と視空間性短期記憶課題を実施、比較したという研究。 結果、視空間性短期記憶課題では有意差はみられなかったが、lvPPAでは音韻性短期記憶課題が有意に低下していたとのこと。lvPPAは音韻ループ障害を持つという仮説通りであった、と著者らは結んでいます。 logopenic型原発性進行性失語症とは、健忘タイプ、非流暢タイプに次ぐ第三のタイプの進行性失語症と言われています。 脳血管障害による失語症の中でもある種の伝導失語が音韻性短期記憶障害によるものと考えられていますが、このタイプは伝統的に言われる入力側の障害ではなく出力側であるところがポイントです。 理論的には進行性失語でもありえますが、症状や進行具合などまだよくわからない点も多いと思われます。続報が期待されます。 ◆03. 失語症 ◆ Aphasia 【a033】SECTとMAST:原発性進行性失語症の文法的能力を評価するための新しいテスト☆ 「 SECT and MAST: new tests to assess grammatical abilities in primary progressive aphasia」 Ornella V. Billette, Seyed A. Sajjadi, Karalyn Patterson ほか German Centre for Neurodegenerative Diseases (DZNE), Magdeburg Site, Magdeburg, Germany ほか Aphasiology Vol 29 Issue 10, 2015, p1135-1151 原発性進行性失語症(PPA)の下位分類のために、簡単に文法的能力を評価できる文章理解テスト(SECT:聴覚バージョン・視覚バージョン)と文産生テスト(MAST)を作成、 41名のPPA患者と21名のアルツハイマー病患者、30名の健常者に実施したという研究。 結果、患者群ではSECT・MASTとも有意に低下がみられ、自発語・文の省略数との間には強い相関がみられたとのこと。 話し言葉で文法的な難しさをみることのできる簡単なテストとしてSECT・MASTは妥当と著者らは結論づけています。 SECTとMASTは話し言葉に文法的な難しさを反映することのできる簡単なテストです。 進行性失語症では文の省略はあっても文法的能力はあまり低下しないと思われており、文法的能力による下位分類が妥当かどうか分かりません。 このあたりを明らかにするためにも簡便なテストは歓迎すべきでしょう。とりあえず続報が待たれます。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今回は進行性失語症の評価についての論文が二つ挙がりました。 進行性失語については90年代頃に盛んに研究されて以降はあまり目立った進展がない状況が続いていますが、そろそろ新たな展開がみられる時期かもしれません。 認知症は今最も注目される病態ですし、二つともまだこれからの研究ではありますが、今後の展開が期待されます。 ◎認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2015年12月4週号(通巻16号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ ◎次号 発行予定日 2016年01月11日(月) ◎おことわり:記事のレビューおよび解説は執筆者個人の所感であり、 必ずしも学術的な定説に従わない場合があります。その旨必ずご了承ください。 ◎レビューの中でよく分からない箇所や解説を求めたい部分がございましたら下記アドレスまでメールでお気軽にお尋ねください。QAとしてメルマガ内でお答えさせていただきます。 ◎文献レビューは注目度が高いと思われるものを編集室で選択しております。 そのため掲載される文献の領域は毎号異なります。 ◎内容に関するご質問・お問い合わせ先: → brain.voice.net@gmail.com (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク |
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2015 12,14 11:12 |
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■認知症・高次脳文献レビュー Lite版
2015年12月2週号 目次 01. 認知症・・・・・・レビュー1件 02. 失語症・・・・・・レビュー2件 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 認知症 ◆ Dementia 【d019】認知症患者の急性期老年精神科での入院治療は、精神神経症状を改善させるが、機能低下を招く ☆ 「Acute Psychogeriatric Inpatient Treatment Improves Neuropsychiatric Symptoms but Impairs the Level of Functioning in Patients with Dementia」 Alanen H, Pitkänen A, Suontaka-Jamalainen K, ほか Neuropsychiatry and Geriatric Psychiatry, Administration Centre, Tampere University Hospital, Tampere University Hospital, Finland ほか Dement Geriatr Cogn Disord Vol 40, No 5-6, 2015, p290-296 行動障害を持ち急性期老年精神科入院中の認知症患者89名に、入院前後でNPI・MMSE・バーテルインデックス・ADCSADLを測定、入院の影響を調査したという研究。 結果、平均44日間の入院中に、精神神経症状のみ大幅に改善がみられたが、NPIは34.6点から19.5点に、ADLは32.2点から21.7点に低下したとのこと。 抗精神病薬・抗不安薬の用量とMMSEには変化はなかったそうです。これらから精神神経症状の薬物治療を行う際に、入院治療は薦められないと著者らは結んでいます。 確かに認知症の方では、入院時が最も元気で、入院が長引くと徐々に元気がなくなっていったり、反応が悪くなったりということが少なからずあります。 ただし同じ入院生活でも、運動や認知のリハビリを行ったり、食堂で三食を食べたり、集団で歌を歌ったりなどの活動をしている場合と、ベッドで日がな寝ている場合とでは結果が随分違うことが予測されます。 何もしないただの入院であればこのような低下は必然と言えるでしょう。活動的な入院をした場合との比較が望まれます。 ◆02. 失語症 ◆ Aphasia 【a031】 亜急性期ニューロリハビリテーションにおける失語症CI療法 ☆☆ 「 Constraint-induced aphasia therapy in subacute neurorehabilitation」 Lisbeth Frølund Kristensena*, Inger Steensiga, Anders Degn Pedersena, ほか Hammel Neurorehabilitation Centre and University Research Clinic, Denmark Aphasiology Vol 29, Issue 10, 2015, p1152-1163 脳卒中亜急性期の失語症者11名にオリジナルバージョンの失語症CI療法(CIAT)を10日間計30時間実施、修正バージョンとどちらが適しているか検討したという研究。 結果、言語機能と実生活上のコミュニケーションの改善の差は統計的に有意ではなかったが、言語機能全般には改善がみられたとのこと。 これらから亜急性期患者には修正のないオリジナルバージョンでのCIATが使用可と考えられた、と著者らは結論づけています。 失語症CI療法(constraint-induced aphasia therapy)とは、CI療法の考え方を失語症に応用したものです。 身ぶりや描画・書字などの代償戦略の使用を制限、音声言語のみでコミュニケーションをとらせることで改善を促すという考え方です。 一日あたり2〜4時間で10日間を練習に当てますが、2〜4週間で実施するバージョンもあるとのこと。 この論文によると、亜急性期はオリジナル通りで問題なかったとのことです。 上肢へのCI療法の実施には、ある程度動かせる場合にしか適応がないこと、拘束はストレスを過剰に与えないよう6時間以内にすることなど、幾つか注意点があります。 失語症CI療法の適応基準をもう少し詳しく知りたいところです。 【a032】 失文法および健忘失語の名詞・動詞呼称における提示時間と反応時間による音韻促進効果 ☆ 「 Phonological facilitation effects on naming latencies and viewing times during noun and verb naming in agrammatic and anomic aphasia」 Jiyeon Leea & Cynthia K Department of Speech, Language, and Hearing Sciences, Purdue University, USA, ほか Aphasiology Vol 29, Issue 10, 2015, p1164-1188. 30名の失文法失語症者と20名の健忘失語症者に、1)動詞と名詞の呼称課題、2)アイトラッキングパラダイムを用いた音韻誘導による呼称課題を行い、失語症における音韻促進のメカニズムの検討を行った、という研究。 結果、失文法失語症者では動詞で音韻促進効果がみられたが、健忘失語症者では名詞で音韻促進効果がみられた、とのこと。 失文法失語症と健忘失語症では音韻促進に際して異なる語彙活性化システムが働くことが示唆された、と著者らは述べています。 アイトラッキングパラダイムとは視覚提示時間をコントロールしたり視線を計測する研究方法です。 失文法失語症者で動詞、健忘失語症者で名詞に音韻促進効果がみられるというように差が生じた理由はよくわかりません。 健忘失語では名詞の想起困難が主なので動詞の方は天井効果で促進効果が出なかったのかもしれません。 失文法失語症はおそらく運動性失語と考えられます。運動性失語であれば構音プログラム過程の障害が想定されますので、健忘失語と語彙活性化システムが異なるのは当然というべきでしょう。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号では「亜急性期ニューロリハビリテーションにおける失語症CI療法」が興味深い論文でした。 CI療法とは、健側の上肢などを拘束して使えなくしてしまうことにより、麻痺した箇所を強制的に使わせて回復を促すというリハビリ方法です。 日本では兵庫医科大学などで主に取り組まれているようですが、これを失語に応用したのが失語症CI療法です。 ジェスチャーや書字などの代用手段を使えなくして強制的に言葉を使わせることで麻痺のCI療法と同じ仕組みを実現させようという理屈です。 なんとも新しいというべきでしょう。ただし病識やコミュニケーション意欲が乏しいケース、代用手段の使用そのものが難しいケースでは使えないと思われます。 上肢同様に効果を高めるために注意すべき点が他にもありそうです。他法との併用も可能でしょう。研究の進展が望まれます。 ◎認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2015年12月2週号(通巻15号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ ◎次号 発行予定日 2015年12月28日(月) ◎おことわり:記事のレビューおよび解説は執筆者個人の所感であり、 必ずしも学術的な定説に従わない場合があります。その旨必ずご了承ください。 ◎レビューの中でよく分からない箇所や解説を求めたい部分がございましたら下記アドレスまでメールでお気軽にお尋ねください。QAとしてメルマガ内でお答えさせていただきます。 ◎文献レビューは注目度が高いと思われるものを編集室で選択しております。 そのため掲載される文献の領域は毎号異なります。 ◎内容に関するご質問・お問い合わせ先: → brain.voice.net@gmail.com (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク |
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2015 11,23 06:35 |
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■認知症・高次脳文献レビュー Lite版
2015年11月4週号 目次 01. 認知症・・・・・・レビュー2件 02. 頭部外傷・・・・・レビュー1件 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 認知症 ◆ Dementia 【d017】高齢患者における認知機能測定力の向上 ☆☆ 「Improving the Measurement of Cognitive Ability in Geriatric Patients」 Lebedeva E, Gallant S, Tsai C ほか The Research Institute of the McGill University Health Centre, Canada ほか Dementia and Geriatric Cognitive Disorders Vol 40 No 3-4, 2015, p148-157 著者らが開発した高齢者の認知能力の評価尺度GRACEについての続報。 GRACEは高機能な認知評価には向いていないという欠点があったため、新しく5つのアイテムを追加した結果、高いレベルの認知機能でも評価できるようになったとのことです。 GRACE(Geriatric Rapid Adaptive Cognitive Estimate)はMMSEやMoCAとも相関し、所要時間5〜10分程度で高齢者の認知機能を評価できるというテストです。 簡易で検出力が高く、しかも適応範囲が広ければ言うことなしです。特にMMSEはじめこの種のものはレベルの高い人をうまく評価できませんでした。 その欠点が本当に克服されているか、今後が注目されます。 【d018】軽度認知障害と早期認知症患者における遂行機能と転倒リスクの連合 ☆ 「The Association of Specific Executive Functions and Falls Risk in People with Mild Cognitive Impairment and Early-Stage Dementia」 van der Wardt V, Logan P, Hood V ほか Division of Rehabilitation and Ageing, School of Medicine, University of Nottingham, UK Dementia and Geriatric Cognitive Disorders Vol 40 No 3-4, 2015, p178-185 軽度認知障害と認知症患者42名に五つの遂行機能テストを実施、転倒リスクとの関連を調査したという研究。 結果、転倒リスクは空間記憶能力とやや強い反応力低下に関連がみられたとのこと。転倒リスク軽減のためには空間記憶能力と反応力低下の抑制に絞るべきと著者らは結んでいます。 転倒には身体能力はもちろんですが、不用意な歩き出しとか、障害物の避け方とか、認知機能もかなり関わるということは従前から言われていました。 その流れから反応力低下や空間把握が大切というのはありそうなことですが、検討が遂行機能との関連のみというのはもの足りない印象です。 これ以外にも注意力とか同時処理とか関わりそうな要素はまだ他にもありそうです。続報が望まれます。 ◆02. 頭部外傷 ◆ Head trauma 【ht006】実用認知訓練:外傷性脳損傷者のためのリハビリテーションプログラム ☆ 「Cognitive Pragmatic Treatment: A Rehabilitative Program for Traumatic Brain Injury Individuals」 Journal of Head Trauma Rehabilitation Vol 30 Issue 5, 2015, pE14-E28 Gabbatore Ilaria, Sacco Katiuscia, Angeleri Romina Bara ほか 重度外傷性脳損傷者15名に実用認知訓練(CPT)を実施、トレーニングの前後での変化をコミュニケーション・アセスメント・バッテリー(ABaCo)などを用いて比較した研究。 結果、言語・非言語・パラ言語すべての側面における理解・産生ともに改善がみられ、終了3ヶ月後のチェックでも維持されていたとのこと。 著者らは慢性患者へのCPTプログラムの有効性を主張しています。 Cognitive Pragmatic Treatment (CPT)とは、24グループのセッションからなり、病識と遂行機能に効果的な、複数のコミュニケーションモダリティからなるプログラムとのことです。 ただやはり比較対象となる方法が設定されていないと、この方法が特異的に優れているのか、別の方法でも代替可能なのかという根本的なことがわかりません。比較検討の報告が待たれます。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号の中では「高齢患者における認知機能測定力の向上」がやや注目されました。 これまで簡易に認知機能を評価する方法というとMMSEやMOCAが挙げられましたが、これらは主に認知症検出を基本として考えられているため、軽度認知障害や予備群である健常な高齢者の認知機能の低下傾向を把握しきれませんでした。 ここしばらくNHKスペシャルでも認知症が続けて特集されていますが、その中でもこれら予備群や初期認知症のケースが予防という観点から注目されていました。 あと10年もすれば国内の認知症と認知症予備群に入る人口は1,000万人を超えると言われています。これらの簡易な検出は非常に望まれていると言えるでしょう。 ◎認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2015年11月4週号(通巻14号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ ◎次号 発行予定日 2015年12月14日(月) ◎おことわり:記事のレビューおよび解説は執筆者個人の所感であり、 必ずしも学術的な定説に従わない場合があります。その旨必ずご了承ください。 ◎レビューの中でよく分からない箇所や解説を求めたい部分がございましたら下記アドレスまでメールでお気軽にお尋ねください。QAとしてメルマガ内でお答えさせていただきます。 ◎文献レビューは注目度が高いと思われるものを編集室で選択しております。 そのため掲載される文献の領域は毎号異なります。 ◎内容に関するご質問・お問い合わせ先: → brain.voice.net@gmail.com (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク |
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2015 11,09 04:08 |
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■認知症・高次脳文献レビュー Lite版
2015年11月2週号 目次 01. 認知症・・・・・・レビュー1件 02. 失語症・・・・・・レビュー1件 03. 前頭葉機能ほか・・レビュー1件 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 認知症 ◆ Dementia 【d016】軽度から中程度のアルツハイマー病における神経精神症状に対する認知リハビリテーションの介入の影響 ☆ 「Impact of a cognitive rehabilitation intervention on neuropsychiatric symptoms in mild to moderate Alzheimer's disease」 Laurence Brunelle-Hamann, Stéphanie Thivierge and Martine Simard Neuropsychological Rehabilitation Vol 25 Issue 5, 2015, p677-707 15名の軽度〜中等度アルツハイマー病患者に認知リハビリを4週間施行、BPSD(行動・心理症状)の変化を調査したという研究。 結果、コントロール群では運動行動異常が増加する傾向がみられたとのこと。著者らは、今後のアルツハイマー病患者の認知リハ研究は運動行動異常の変化に注目する必要があるだろう、と結んでいます。 アルツハイマー病への認知リハビリは90年代を中心に盛んに研究されましたが、現在のところは認知機能を引き上げるよりも、主に二次的に起こる心理状態の安定化や行動異常の軽減を目的に行われることが多いように思われます。 この研究もその傾向を支持する結果となっています。 住環境や介護環境・運動や日常生活行動・薬物療法の有無など、もう少し効果に影響する要因の検討がなされれば、BPSDへの対応の手段として認知リハビリを明確に位置づけられるでしょう。 ◆02. 失語症 ◆ Aphasia 【a028】 文とそれ以上へ:軽度失語症のシングルケースセラピーの報告 ☆ 「To the sentence and beyond: a single case therapy report for mild aphasia」 Julie Hickin, Beejal Mehta and Lucy Dipper Aphasiology Vol 29 Issue 9, 2015, p1038-1061 左脳塞栓により軽度失語を呈した発症後2年の22歳女性に対し、機能障害ベース療法を週一回16セッション実施したという報告。 結果、症例はセッション終了後にシンデレラの物語叙述で複雑な文を産生することができるようになったとのこと。 機能障害ベース療法は複雑な文章生産や談話能力を向上させる可能性がある、と著者らは結んでいます。 機能障害ベース療法(Impairment-based therapies)とは、まず動詞を想起し、次いで文の構造を策定することに焦点を当てた治療法です。 我が国で行われている統語的アプローチと類似した方法といえるでしょう。 発症後2年で改善がみられたケースですが、この症例がこれまでどんな治療訓練を受けてきたか、そこの詳細が明らかにならないと、 本当に機能障害ベース療法が良かったのか、なぜ改善したのか、という話に繋がらないと思われます。もう少し情報が欲しいところです。 ◆03. 前頭葉機能ほか ◆ Frontal function & others 【f015】意識障害患者に対する音楽による認知のブースト ☆☆ 「Boosting Cognition With Music in Patients With Disorders of Consciousness」 Maïté Castro, Barbara Tillmann, Jacques Luauté, ほか Neurorehabilitation and Neural Repair vol 29 no 8, 2015, p734-742 ファーストネームで呼びかけをして脳波上反応がみられない意識障害患者13名に対し、音楽が影響するかベッドサイド脳波記録を用いて調査した研究。 結果、連続音を聴かせた後よりも好みの音楽を聴かせた後の方がファーストネームでの呼びかけに事象関連電位で良い反応がみられたとのこと。 著者らは、意識障害を有する患者の認知に音楽が有益な効果をもたらすことを初めて証明した、と述べています。 f009でレビューした「Preserved Covert Cognition in Noncommunicative Patients With Severe Brain Injury?(重度脳損傷によるコミュニケーション不可能患者のコバート認知の保持 )」 の続編のような研究です。 重度意識障害患者でもファーストネームの呼びかけには脳波上反応がみられる場合があるという事実をベースに、音楽で反応を高めたというもの。 今後反応性を高められるかどうか、音楽の他の刺激で有効なものはないか、続報が待たれます。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号の中では「意識障害患者に対する音楽による認知のブースト」が音楽刺激の発展性への期待、という意味で注目されました。 音楽および歌は地球上のあらゆる民族が文化や言語発達の程度に関わらず全て持っていると言われています。 それだけ音楽は我々の深いところに根ざしていると考えられます。 ですので音楽は認知回復の手段として大いに期待できるのですが、昔から取り組まれている割にはなかなかはっきりしたエビデンスは得られませんでした。 おそらく条件が複雑にならざるを得なかったためと考えられますが、この研究のように対象や条件をうんと絞ることにより少しずつ明らかになっていくことでしょう。 今後が期待されます。 ◎認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2015年11月2週号(通巻13号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ ◎次号 発行予定日 2015年11月23日(月) ◎おことわり:記事のレビューおよび解説は執筆者個人の所感であり、 必ずしも学術的な定説に従わない場合があります。その旨必ずご了承ください。 ◎レビューの中でよく分からない箇所や解説を求めたい部分がございましたら下記アドレスまでメールでお気軽にお尋ねください。QAとしてメルマガ内でお答えさせていただきます。 ◎文献レビューは注目度が高いと思われるものを編集室で選択しております。 そのため掲載される文献の領域は毎号異なります。 ◎内容に関するご質問・お問い合わせ先: → brain.voice.net@gmail.com (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク |
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2015 10,26 11:04 |
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■認知症・高次脳文献レビュー Lite版 2015年10月4週号
目次 01. 失語症・・・・・・レビュー3件 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 失語症 ◆ Aphasia 【a025】発語失行と失語症を伴う5名のためのスピーチ音楽療法(SMTA)の有効性 ☆☆ 「The effectiveness of Speech-Music Therapy for Aphasia (SMTA) in five speakers with Apraxia of Speech and aphasia」 Joost Hurkmans, Roel Jonkers, Madeleen de Bruijn, ほか Aphasiology Vol 29, Issue 8, 2015, p939-964 5名の発語失行を伴う失語症者にスピーチ音楽療法(SMTA)を週2回24セッション実施したという報告。 結果、全員のディアドコで改善傾向がみられたが、うち4名はディアドコの構音にも、2名は単語の構音にも改善がみられた、とのこと。 そして5名中3名は比較対照の心理言語学的テストでは変化がなかったそうです。 スピーチ音楽療法は構音だけでなく日常生活でのコミュニケーションの改善にも重要と著者らは述べています。 スピーチ音楽療法(Speech-Music Therapy for Aphasia : SMTA)は発語失行の改善を目的に言語リハビリと音楽療法の原理をミックスして作られたものです。 こちらに動画がありますのでご参考にしてください。https://m.youtube.com/watch?v=QA0pNmG8Bfw 発語失行の改善法ではミュージック・イントネーション・セラピーが知られていますが、SMTAの原理はそれと大差ありません。 ただSMTAはリズムに乗せて行う部分が強調されており、その分容易な印象があります。方法はボイスセラピーのアクセント法っぽいですね。試してみるのも面白います。 【a026】地域失語症グループにおける消費者の視点:心理的幸福度の文献分析☆ 「Consumer perspectives on community aphasia groups: a narrative literature review in the context of psychological well-being」 Michelle C. Attard, Lucette Lanyon, Leanne Togher ほか Aphasiology Volume 29, Issue 8, 2015, p983-1019 地域失語症者グループに参加している失語症者とその家族の心理的幸福度を明らかにするために文献的分析を行ったという報告。 結果、地域失語症者グループは失語症者とその家族の心理的幸福に積極的に貢献しており、生活の目的、環境適応力、自律性、個人的成長、および自己受容と正の相関がみられたとのこと。 臨床家はグループの特性をよく考慮し、成果が出るよう指導・助言すべきと著者らは結んでいます。 次も同じ分野のレビューですのでまとめて次でコメントします。 【a027】 失語症・脳卒中・その他のグループ参加への利点の気づき:「私達はちょうど、これがクリスマスだと思いました」 ☆☆ 「“We just thought that this was Christmas”: perceived benefits of participating in aphasia, stroke, and other groups」 Annette Rotherham, Tami Howe and Gina Tillard Aphasiology Vol 29, Issue 8, 2015, p965-982 10名の失語症者と6名の家族に半構造化インタビューを実施、グループのメリットを調査した研究。 結果、グループに参加することには、心理社会的面、コミュニケーション面、情報面、社会参加面、その他など25項目のメリットが挙げられたが、 これらはグループのファシリテーターが言語聴覚士なのか、仲間なのか、ボランティアなのか、また脳卒中グループか一般人かによって変わったとのことでした。 著者らはグループが適切に進行されるような幅の広さが大切と結んでいます。 上もこれもグループのメリットを強調した報告ですが、ひとくくりにグループといっても構成員やファシリテーターによって雰囲気や進み方などがまるで違い、 全て同列に述べられるものかどうか疑問、というコメントは以前にもしたところです。 ファシリテーターの違いを指摘したこの報告は納得できるものですが、立場だけでなくどのような態度が関与するのかもう少し踏み込みたいところです。 上の報告に関連して言えば、地域ベースと混合で差があるかどうか比較データがあると説得力が増すでしょう。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号の中ではスピーチ音楽療法がやや注目されます。 コメントにも書いた通り自動性を利用したミュージック・イントネーション・セラピーとよく似たものではありますが、メロディだけでなくリズム発話になっていて、むしろアクセント法によく似ていると思われます。 意外にアクセント法をそのまま行うだけでも発語失行は改善に向かうかもしれません。他にリー・シルバーマン法の常套句練習の考え方なども使える可能性があります。 このあたりのボイスセラピーの手法の中には失語症のリハビリに使えそうなものはが幾つかありますので、積極的に試みてみると新しい展開があるかもしれません。 ◎認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2015年10月4週号(通巻12号) 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ ◎次号 発行予定日 2015年11月09日(月) ◎おことわり:記事のレビューおよび解説は執筆者個人の所感であり、 必ずしも学術的な定説に従わない場合があります。その旨必ずご了承ください。 ◎レビューの中でよく分からない箇所や解説を求めたい部分がございましたら下記アドレスまでメールでお気軽にお尋ねください。QAとしてメルマガ内でお答えさせていただきます。 ◎文献レビューは注目度が高いと思われるものを編集室で選択しております。 そのため掲載される文献の領域は毎号異なります。 ◎内容に関するご質問・お問い合わせ先: → brain.voice.net@gmail.com (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク |
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