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■認知症・高次脳文献レビュー Lite版
【2015年9月4週号 目次】 01. 失語症・・・・・・レビュー2件 02. 前頭葉ほか・・・・レビュー1件 編集室より ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ◆01. 失語症 ◆ Aphasia 【a022】失語症を背景とした選考に基づく健康関連QOL ☆ 「Preference-based health-related quality of life in the context of aphasia: a research synthesis」 David G. T. Whitehurst, Nicholas R. Latimer, Aura Kagan ほか Aphasiology Vol 29 Issue 7, 2015, p763-780 8つの出版物・6研究から失語症者の健康関連QOL(HRQOL)の評価状況を調査した報告。 結果、幾つかではEQ-5Dが使われていたが、HRQOLの評価がなされていなかったり、一つでは画像に基づいたEQ-5Dバージョンが考案され用いられていたとのこと。 失語症でのHRQOL評価の妥当性や実証研究には不足があり、今後開発や大規模な検証が必要だろうと著者らは結んでいます。 HRQOLは様々な疾患の患者さんや健康な方のQOLを測定する質問紙です。 これにはSF-36、SF-12、SF-8など様々なバリエーションがありますが、EQ-5Dは「移動,身の回りの管理,普段の活動,痛み/不快感,不安/ふさぎ込み」の5項目からなるバージョンです。 今の状態と完全に健康な状態との比を計算することで効用値を算出します。日本版も出ていて世界中で広く用いられていますが、当然失語症は想定されていません。 失語用に改変バージョンを作っても信頼性に欠けてしまいます。失語症者に用いたいなら、可能かどうかは分かりませんが著者らの言うように何らかの抜本的な対策が必要です。 【a023】意味障害と動詞過去形の産生:不規則動詞の過去時制産生の近接と頻度 ☆ 「Semantic impairment and past tense verb production: neighbourhood and frequency modulation of irregular past tense production」 Lara Harris and Glyn Humphreys Aphasiology Vol 29 Issue 7, 2015, p799-825 後頭葉皮質萎縮および意味的障害を持つ一症例に動詞産生テストを実施、動詞過去形の産生で意味的に曖昧な場合に音韻的近接が手助けになるかどうかを調査したという研究。 結果、単語頻度や意味の手助けが低い場合に音韻的近接の効果は非常に強く働いたとのことです。 英語動詞の不規則な過去形の生産は意味との関連で単一機構モデルで説明可能と考えられる、と著者らは結んでいます。 英語では動詞が過去形になる場合にgo-wentのように全く変化してしまう不規則動詞がありますが、その中でもsleep–sleptのように音が似ているものがあります。 不規則動詞でも意味がしっかり想起できている場合や高頻度語では過去形想起に差はないが、意味が曖昧な場合・低頻度後の場合には似ているものが想起しやすかったということです。 日本語とは全く異なる体系ですので動詞の不規則変化といっても馴染みのないところですが、音韻類似効果そのものは日本語でもあり、語頭音ヒントもこれと似たようなものです。 意味と音韻の単一機構モデルも、そもそも同一機構で構築して問題ないものと思われますし、そのようなモデルもあります。特に新規性はみられないように思われますがどうでしょうか。 ◆02. 前頭葉機能ほか ◆ Frontal function & others 【f013】片麻痺の病態失認における危機意識とエラーベーストレーニング ☆ 「Error-based training and emergent awareness in anosognosia for hemiplegia」 V. Moro, M. Scandola, C. Bulgarelli, ほか Neuropsychological Rehabilitation Vol 25 Issue 4, 2015, p593-616 4名の慢性期片麻痺病態失認患者に「エラーフル」または「エラー分析」のリハビリ訓練プログラムを実施したという報告です。 「エラー分析」とは特定の実行行動について戦略とエラーを分析し、その失敗の理由を議論するという方法です。結果、すべての患者で改善がみられたとのこと。 著者らは病態失認患者でも危機回避は可能、としています。 たいへん正攻法な取り組みで結果も良かったようですが、このような病態失認患者の問題はトレーニングするとその課題はクリアできるものの、他には全く広がらない、というところにあります。 トレーニング課題を増やしていってもその傾向は変わらず、そこに大きな壁があると言わざるを得ません。 この4例も特定の実行行動のトレーニングを行い、その結果が良かったということで、決して障害が軽減したわけではありません。 もっと根本からの改善を目指すならやはり注意・認知トレーニングも必要と考えられます。 ─────── ◆編集室より ◆ ─────── 今号は特にこれといった目立つ論文はありませんでしたが、病態失認に関することでひとつ。 転倒など危険行動を防止することは非常に重要ですが、認知的な危険防止能力と行動的な危険防止能力は別物と考えられます。 病態失認の評価は認知的な課題でなされやすいのですが、実際の危険は行動的な能力に左右される面が大きいのではないでしょうか。 病態失認へのアプローチにこれといった決め手がないのが現状ですが、このあたりの研究がもう少し進めば新たな展開がありうると思われます。 ◎認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2015年9月4週号 毎月第2・第4月曜日発行 ◎発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ ◎次号 発行予定日 2015年10月12日(月) ◎おことわり:記事のレビューおよび解説は執筆者個人の所感であり、 必ずしも学術的な定説に従わない場合があります。その旨必ずご了承ください。 (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク PR |
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