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認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2015年6月2週号 毎月第2・第4月曜日発行 発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2015年6月2週号 目次】 ■□■□■□■□■□■□■□■□■ 01. 注意・記憶系・・・レビュー1件、タイトル1件 02. 認知症・・・・・・レビュー1件、タイトル2件 03. 失語症・・・・・・レビュー1件、タイトル2件 04. 前頭葉機能ほか・・タイトル1件 05. 頭部外傷・・・・・タイトル1件 編集室より ■□■□■□■□■□■□■□■□■ ※注目度を☆で表しています ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆01. 注意・記憶系◆ Attention & Memory ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【am004】日常生活における行動無視の解剖学的部位と心理測定の関係 ☆☆ 「Anatomical and psychometric relationships of behavioral neglect in daily living」 Marc Rousseauxa, Etienne Allarta, Thérèse Bernatia, ほか Neuropsychologia Vol 70 April 2015, p64-70 45例の大脳右半球損傷患者の発症1ヶ月時の無視の状態と日常生活上の行動的困難を分析し、ボクセルベースのマッピングシステムで損傷部位を特定したという研究。結果、日常生活上の無視は上側頭回後部と上縦束を含む側頭頭頂皮質接合部病巣、身体近傍空間無視は上側頭回と下頭頂状回を中心に拡張した皮質病巣、個人内空間無視は体性感覚野と上側頭溝を中心とした病巣、病態失認は後下側頭回および上側頭回病巣で生じていたとのことで、著者らは日常生活上の無視と身体近傍空間無視の強い関連を示唆しています。 個人内空間無視とか身体近傍空間無視というのは、身体を中心とした空間を、1)身体そのものである個人内空間 (personal space)、2)身体表面から数cmから数十cmの範囲で身体を直接取り巻く身体近傍空間(peripersonal space)、3)それ以上に離れた身体外空間(extrapersonal space)の3つに区分し、その考え方に基づいて無視空間を分類したものです。ヒトの空間把握には身体からの距離により差があるのではないかという考え方に基づいています。個人内空間無視は半側身体失認という名称ですと半側空間無視とは別のものというイメージになってしまいますが、この考え方通り連続的なものと捉えた方が合理的でしょう。日常生活上の無視が半側身体失認や病態失認とあまり関連がないというのは特に新しい知見ではありませんが、これらの新しい捉え方が新展開を生む可能性は充分あり今後が期待されます。 【am005】「『電子機器機能の重複現象』の発現機序についてー新たな妄想性誤認症候群の一徴候ー」☆ 高倉 祐樹、大槻 美佳、中川 賀嗣、ほか 神経心理学 31卷1号、2015、p56-69 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆02. 認知症 ◆ Dementia ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【d007】パーキンソン病における軽度認知障害と基準データの差異によるマチス認知症評価スケールの臨床的妥当性 ☆ 「Clinical Validity of the Mattis Dementia Rating Scale in Differentiating Mild Cognitive Impairment in Parkinson's Disease and Normative Data」 Bezdicek O, Michalec J, Nikolai T, ほか Dementia and Geriatric cognitive disorder Vol 39, No.5-6, 2015, p303-311 【d008】 高齢者の前頭側頭型認知症の普及における診断基準の効果 ☆ 「Effect of diagnostic criteria on prevalence of frontotemporal dementia in the elderly」 Thorsteinn B. Gislason, Svante Östling, Anne Börjesson-Hanson ほか Alzheimer's and Dementia Vol 11 Issue 4, 2015, p425-433 【d009】「多様な課題が含まれる「宿題帳」を継続することで農村地域住民の語の流暢性が向上した ─ 自治体主催の介護予防事業の有用性と評価法の検討」☆ 伊関 千書、ほか 日本認知症学会誌 27卷1号、2013、p62-69 40歳以上の農村地域住民26名に計9回の講義・軽体操・レクレーション・座談会等と、民話や童話の音読・簡単な計算・日記・ぬり絵や簡単な図画作成課題などの宿題帳(対象26名中16名)を介護予防事業として実施、認知機能低下やうつ気分を予防しうるか検討した調査の報告。介護予防事業に不参加の66名にも遂行機能障害やうつ気分を評価する自記式質問票を実施しています。結果、7か月間で参加者・不参加者とも遂行機能障害やうつ気分に変化はみられなかったそうですが、宿題帳を行った群では語の流暢性課題のカテゴリー課題にアップがみられたとのことでした。 著者らも述べていますが、40歳以上という年齢設定はどうみても適切ではなかったと思います。これでは差が出なくても仕方ありません。介護予防イベントも月1回程度ではちょっと間が空きすぎのように思われます。認知機能の評価に自記式質問票に遂行機能障害やうつ気分を反映する質問を選択していますが、これらはMMSEでも主な対象としてしない機能であり認知機能障害の検出力という点で疑問があります。宿題帳ではやや効果があったとのことですので、もう少し内容や方法を吟味して、検出課題を記憶や構成を中心としたものにしたり、日常生活行動のチェック表の形式にすればかなり違った結果になってくるのではないでしょうか。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆03. 失語症 ◆ Aphasia ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【a006】復唱と音読障害を伴う伝道失語のマルチモダールマッピング研究 ☆☆ 「A multimodal mapping study of conduction aphasia with impaired repetition and spared reading aloud」 Barbara Tomasino, Dario Marin, Marta Maieron Neuropsychologia Vol 70 April, 2015, p214-226 【a007】 経頭蓋直流刺激治療後の失読症成人における改善読解力の測定 ☆☆☆ 「Improved reading measures in adults with dyslexia following transcranial direct current stimulation treatment」 Inbahl Heth, Michal Lavidor Neuropsychologia Vol 70 April, 2015, p107-113 発達性難読症(ディスレクシア)の成人を経頭蓋直流刺激(tDCS)を実施した群と偽の刺激を行った群に分け、効果を調査した研究。刺激部位はMT/V5野で2週間5セッション実施した結果、経頭蓋直流刺激群は大幅に音読速度と流暢性に改善がみられたとのこと。この部位が読みに重要であり、少なくとも経頭蓋直流刺激で音読速度と流暢性を改善させられると著者らはしています。 tDCSは頭に1-2mA程度の弱い直流電流を5-30分程度通すことにより神経活動を賦活する治療法です。従来のrTMSと補完的に使用し、脳卒中やうつ病、片頭痛のような多様な病態の治療とリハ効果を高めるための方法として応用と研究が広まっています。これまで前頭前野を刺激して言語流暢性が改善したという報告はありましたが、読みの改善のために側頭頭頂部にあるMT/V5野を刺激したという報告はありませんでした。MT/V5野は視覚の連合野ですが、視覚言語の中枢といわれている角回がその周辺にあるので、その部位を選択したのでしょう。選択は適切であったといえそうです。トム・クルーズやスピルバーグをはじめとして難読症でお悩みの方はかなりいらっしゃいます。リハとの組み合わせ効果など続報が大変期待されます。 【a008】「数唱や無意味音列の復唱は可能であるが複数単語の復唱に困難を示した失語症例 ~言語性短期記憶についての一考察~」 ☆ 宮崎 泰広、藤代 裕子、今井 眞紀、ほか 高次脳機能研究 34卷1号、2014、p17-25 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆04. 前頭葉機能ほか ◆ Frontal function & others ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【f006】多発性硬化症における体力と認知機能との関連 ☆ 「Association Between Physical Fitness and Cognitive Function in Multiple Sclerosis Does Disability Status Matter?」 Brian M. Sandroff, Lara A. Pilutti, Ralph H. B. Benedict, ほか Neurorehabilitation and Neural Repair Vol 29 March/April, 2015, p214-223 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆05. 頭部外傷 ◆ Head trauma ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【ht002】 高齢者における外傷性脳損傷後の脳卒中発症率 ☆ 「Stroke Incidence Following Traumatic Brain Injury in Older Adults」 Albrecht Jennifer S, Liu, Xinggang, Smith Gordon S, ほか Journal of Head Trauma Rehabilitation Vol 30 Issue 2, 2015, p62-67 ────────────────────────── ◆編集室より ◆ ────────────────────────── 今号では「経頭蓋直流刺激治療後の難読症成人における改善読解力の測定」が最も先進的かつ今後が期待できる論文でした。経頭蓋直流刺激と似たものにrTMS(経頭蓋磁気刺激)もありますが、どちらも2週間程度の入院でリハと組み合わせることにより発症後何年も経った慢性期であっても効果が期待できるというところが大変画期的な治療法です。どちらも患者本人には侵襲も苦痛もなく、時間もMRIを撮るのと大差ない程度でできますので、もっと広まって欲しい方法です。導入の条件も、機器と刺激部位を特定し機器を操作できる脳外科医がいればできますので、脳外科とMRIがあるところなら考慮されることをお薦めします。ただし何に効果があるのか、どのような症例に効果があるのか、このあたりはこれからの研究によります。今回ディスレクシアを選ばれたところは出色でした。今後の研究の進展が非常に期待されます。 他に「日常生活における行動無視の解剖学的部位と心理測定の関係」において提示されている無視の分類と新しい画像診断による損傷部位の関係も注目されます。半側無視についての治療研究は上でも触れたrTMSを用いるもの以外は近年ややいき詰まりを見せていますので、このような新たな方法の導入は突破口のひとつとなるやも知れません。今後の展開を見守りたいところです。 さて、掲載レビューの全てをご覧いただけるメルマガfullsize版は、通常月額540円のところ、現在、創刊記念特別価格 月額270円でご提供させていただいております。ぜひこの機会にご登録いただければと存じます。 なおレビューの中でよく分からない箇所や解説を求めたい部分がございましたら下記アドレスまでメールでお気軽にお尋ねください。QAとしてメルマガ内でお答えさせていただきます。 ◎次号 発行予定日 2015年6月22日(月) ◎おことわり:記事のレビューおよび解説は執筆者個人の所感であり、 必ずしも学術的な定説に従わない場合があります。 その旨必ずご了承ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎文献レビューは注目度が高いと思われるものを編集室で選択しております。 そのため掲載される文献の領域は毎号異なります。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク PR |
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