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2015 08,10 09:57 |
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認知症・高次脳文献レビュー Lite版 〜 忙しい医療・福祉職のための最新知識 〜 2015年8月2週号 毎月第2・第4月曜日発行 発行:ブレイン・ボイス・ネットワーク http://brainvoicenet.aikotoba.jp/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2015年8月2週号 目次】 ■□■□■□■□■□■□■□■□■ 01. 失語症・・・・・・レビュー3件 02. 前頭葉機能ほか・・概要1件 編集室より ■□■□■□■□■□■□■□■□■ ※注目度を☆・☆☆・☆☆☆で表しています ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆01. 失語症 ◆ Aphasia ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【a017】 言語理解とワーキングメモリの寄与:失語症タイプの差異効果 ☆ 「The contribution of working memory to language comprehension: differential effect of aphasia type」 M.V. Ivanova, O.V. Dragoy, S.V. Kuptsova, ほか Aphasiology Vol 29, Issue 6, 2015, p645-664 アイトラッキングを利用してワーキングメモリー課題を流暢性失語19名、非流暢性失語16名、健常者36名に実施、失語と認知機能障害の関連を検討した研究。結果、失語群はワーキングメモリー課題成績が有意に低下しており、非流暢群では言語理解との関連が見られた、とのこと。これらから著者らは失語には認知障害が合併する可能性があり、それらは言語症状をより悪化させる傾向がある、と結んでいます。 アイトラッキングは視線移動を可視化してくれる装置、ワーキングメモリーは数十秒〜数分間だけ作動する記憶の一時避難機構です。ワーキングメモリーの障害の有無は失語があるとよく分からないのですが、アイトラッキングという非言語的な手段を使えば失語の影響を受けないのでその障害を検出できるということです。ただ結果はどうもすっきりしません。結果からは失語とワーキングメモリーが関連するということになりますが、記憶を一時避難させておく際に言語的なバックアップができないために生じたワーキングメモリーの低下なのか、損傷部位が失語とワーキングメモリーで重なる面があるから生じた低下なのか、単に失語だと脳の損傷量が大きいために生じたーワーキングメモリーの低下なのか、このままでは色々な解釈が可能です。ここはやはり脳の損傷量をマッチングさせた脳損傷非失語群を設定し、そことの比較をすべきでしょう。アイトラッキングを用いた評価は有望ですが、議論はデータが揃ってからということになるでしょう。 【a018】流暢失語症の談話における語彙不足の影響 ☆ 「The effect of lexical deficits on narrative disturbances in fluent aphasia」 Sara Andreetta, Andrea Marini Aphasiology Vol 29, Issue 6, 2015, p705-723 流暢失語症20名と健常者20名に談話をさせ、ミクロ言語学な語彙・文法障害がマクロ言語学な談話産生にどう影響するか検討した研究。結果、語彙障害は談話の一貫性を低くし、語彙の減少は産生エラーの一貫性と相関がみられたとのこと。これらからミクロ言語学な困難はマクロ言語学な処理に影響すると考えられ、ミクロ言語学とマクロ言語学それぞれのレベルを評価する必要がある、と著者らは結んでいます。 マクロ言語学とは談話など人の言語行動に関するあらゆる事柄を対象とした研究で、ミクロ言語学とは社会とは切り離した個人の言語構造などを対象とした研究です。従来の失語症分析はミクロ言語学的な視点が中心でしたが、近年はマクロ言語学の勃興を反映して失語に対しても談話研究が比較的盛んになされるようになってきました。要するにコミュニケーションとか伝達性という視点を入れて考えようということで、著者らもその重要性を提言したいようですが、今のところまだエポックメイキング的な展開には至っていないようです。 【a019】 外傷性脳損傷後のジェスチャーの使用:予備的な分析 ☆ 「The use of gesture following traumatic brain injury: a preliminary analysis」 Min Jung Kim, Julie A.G. Stierwalt, Leonard L. LaPointe ほか Aphasiology Vol 29, Issue 6, 2015, p665-684 30名の外傷性脳損傷者と32名の非脳損傷者にAdolescent成人喚語テストを行い、ジェスチャーの使用頻度やパターン、使用手を調査したというもの。結果、外傷性脳損傷者では3倍多くジェスチャーを使用しており、特に指差しが多かったとのこと。外傷性脳損傷者でのジェスチャーは語彙検索を容易にしているのではないかと著者らは推測しています。 ジェスチャーというのは非言語的コミュニケーション方法の代表的なものですが、健常者でも多用する人もいれば、ほとんど使わない人もいます。注目させようとして使う人もいれば、自分の抽象概念を形にしたくて使う人もいます。無意識に使っている人も多いと思います。ジェスチャーとは実に多様な意図が込められた、決して一様ではない現象です。脳損傷者、特に失語症者でジェスチャーがどう使われているのか、一度徹底的に分析してみることは必要なことと思われますが、意図や方法、病前習慣や伝達内容など全て勘案して分析しないとせっかくの労力がもったいないことになってしまいそうです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆04. 前頭葉機能ほか ◆ Frontal function & others ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【f011】 「高次脳機能障害者の就労と神経心理学的検査成績との関係」☆総合リハビリテーション 43巻 7号、2015、p653-659 高次脳機能障害29名(平均32.1歳)に3か月間の注意力の認知訓練後、就労・未就労と神経心理学的検査の下位項目との関連を調べた研究。結果、認知訓練前ではWMS-R遅延、認知訓練後ではWAIS積木の得点が高いケースが就労者に多かったとのことです。 ────────────────────────── ◆編集室より ◆ ────────────────────────── 今号は雑誌発刊の谷間時期に当たっているため掲載論文が大変少なく、分野も偏ったものになってしまっています。しかも質的にも今ひとつで全体にパッとしない内容であることをお詫び申し上げます。 今号の中ではアイトラッキングシステムが気になりましたので、ここで言及します。アイトラッキングシステムは実験装置としては何十年も前からある、既によく知られた存在ですが、昔の装置は大掛かりで高価でとても使いにくいものでした。それが今はテクノロジーの進歩により、以前とは比較にならないぐらい小型化して安価になり扱いやすくなりました。前号でもアイトラッキングシステムを用いた研究論文を紹介しましたが、臨床研究に応用しやすくなってきていることは確かです。ただ、安価とはいっても数十万円はしますので、まだ日常臨床で気軽に使えるほどではありません。現時点ではあくまで研究のための装置という位置づけなのは致し方ないところです。しかしおそらく10年以内にメガネ型のようなウェアラブルディスプレイが実用化されると予測されます。もしメガネ型ならそのl利点を活かすために必然的にアイトラッキングシステムがその中核機能として利用されるはずです。そうなれば日常臨床への応用はぐんと進むと考えられます。その時が待ち遠しいものです。 ◎次号 発行予定日 2015年8月24日(月) ◎おことわり:記事のレビューおよび解説は執筆者個人の所感であり、 必ずしも学術的な定説に従わない場合があります。その旨必ずご了承ください。 ◎レビューの中でよく分からない箇所や解説を求めたい部分がございましたら下記アドレスまでメールでお気軽にお尋ねください。QAとしてメルマガ内でお答えさせていただきます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎文献レビューは注目度が高いと思われるものを編集室で選択しております。 そのため掲載される文献の領域は毎号異なります。 ◎内容に関するご質問・お問い合わせ先: → brain.voice.net@gmail.com ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ (C). ブレイン・ボイス・ネットワーク PR |
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